九谷吸坂窯便り 第15回

 日頃、腰痛を抱えているとはいえ、これまで大きな病にかかったことはなかったが、血液検査で数値が高い所があり、年一回定期検査を受けていた。加賀市大聖寺にある加賀市民病院に通っていたが、その病院が廃止になり、加賀市医療センターとして、JR加賀温泉駅前に新築移転した。昨年春のことだ。
 その計画は前市長の時に出された。この市長は当地出身だが、長く東京で官僚としてやってきた人で、一種の天下りだった。それを担ぐ人がいて、おそらくそういう人達の間ではこの新築移転案は大分前からあったのであろう。JR加賀温泉駅前ではすでに開発がすすめられ、大型商業施設が進出している。さらに田んぼを潰して開発をすすめようとしていたのだ。
 前市長は現役ながら市長選挙で落選し、移転新築計画は一旦白紙に戻されたかに見えたが、それはポーズだけで、現市長はそれを引き継いた。
 大聖寺にあった市民病院は平成17年頃に改装し、その後人工透析のためにあらたに施設を補充している。建物が古くなったという感じは全くなかった。何故に新病院を作らなければいけないのか。80億円(土地代10億円を含む)を投じて。古い城下町である大聖寺の街はますます寂れるだろう。
 日本人は健忘症で、体勢順応する人が多いと、評論家で文学者の加藤周一氏がそういう主旨のことを述べているが、歴史に学ばない、歴史上に集積されてきたもの(例えば歴史的な街並み)を大事にしないということなのだ。 新病院の外観、色や形についても文句を言いたくなるが、一つだけ見直したことがある。それは病院の半面に田んぼが広がっており、遠くに白山山系、その山際に民家が点在して、美しい日本の田園風景を見ることができるということだ。待合室に座って、大きな窓ガラス越しに広がる青田にウットリとし、心洗われる思いがした。その時は六月下旬だったが、収穫時の黄金色、さらに晩秋から冬、田植え前の頃、季節によって風景、色彩は変る。この日本の風景、これは作品の題材になることは言うまでもない。私のモチーフなのだ。
 しかし、問題は北陸新幹線。金沢から関西への工事がすでに始まっている。今年に入って、鉄路設置のため、資材置場のため、広大な田んぼが潰された。先人が汗や血を流して作り、何代にもわたって受け継がれてきた美事な田んぼが消えてしまった。人々はさらにこれからも便利さ、経済成長を求めていくのだろうか。

※本記事は夢レディオ編集室Vol.47(2017年10~12月号)に掲載されたものです

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