明日より九谷吸坂窯展開催

今年も小松市佐美町の願船寺にて9月14日(金)から9月20日(木)まで九谷吸坂窯展を開催いたします。
硲紘一、海部公子両名の新作展示や、それら作品の即売も行っておりますので、是非一度お立ち寄りください。

〒923-0984 石川県小松市佐美町申374−2 


期間2018年9月14日(金)~2018年9月20日(木)
時間10:00~17:00
場所色絵 横山
石川県小松市佐美町374-2 願船寺内
電話番号0761-44-1417

九谷吸坂窯便り 第9回

 硲伊之助美術館では、本年度(※)の常設展を開催中(4月20日迄)で、正面ケースの中央には「九谷本窯上絵夏樹立大皿」(1973年作径45・0㎝)が展示されている。この作品の下絵は前年、丹後天橋立に三ヶ月間滞在した折に描かれたもので、その木炭による素描画は、格好のモチーフ、天候、精神的なことを含む自身の体調、それらに恵まれて順調に描き進んだようだ。描き終えたこの素描画のために、めったにないことだが、本金の額縁が注文された。それは今回の常設展でも「夏樹立大皿」の間近の壁面に展示されている。下絵と大皿を比較して見ると、木炭のデッサンを忠実に大皿に呉須で再現していることが分る。 写生したものを雁皮紙に写し、さらに大皿に描く。この場合は素焼大皿に呉須で線描きしたものに、白釉をかけて、還元炎約1250度で焼くことになる。硲伊之助作品は呉須で線描きしたものが多く、当初から古渡りの唐呉須を用いていたが、手持ちのものが無くなったので、廃鉱になった銅山の鉱石から新たに呉須を作った。この新しい呉須は、上質のものは多くはとれなかったが、落ち着いた柔らかい鮮やかな紺青になった。見事な色合いになったこの「夏樹立大皿」が本窯から出た時、先生は喜んだ。さらにこの大皿に着色して色絵窯に入れると、これも思った以上の仕上りになった。言葉に出さなくとも、先生の体中から満足感、充実感が伝わってきた。快心の作だった。
 先生が亡くなる半年前(1977)に刊行された「硲伊之助作品集」の陶芸の最初のページには、躊躇なく「夏樹立大皿」を載せた。さらに亡くなった年の秋、一水会陶芸展で遺作を10点近く並べたが、その中央に「夏樹立大皿」を置いた。会場に顔を出した先生の弟子が「どうしてあの作品が真ん中にあるのか」と質問してきた。それは「夏樹立大皿」が最もすぐれているからですと。「夏樹立大皿」は文句なしの自信に満ちていた。
 しかし、その後思うことは、この作品は古九谷の特長である色彩の強さを出すのではなく、染付の味わいを生かし淡彩風に仕上げており、古九谷を継承するということでは、代表作とは言えないかもしれないということだった。ただしそのことは、古九谷の五彩、その強さという枠をあらかじめ設定して制作するのではなく、どのような作品にするのかは、その時対面したモチーフを見て感じたことによる、先生の作画態度は自身が感じたことにあくまでも素直であるということだった。

※本記事は夢レディオ編集室Vol.41(2016年4~6月号)に掲載されたものです